社長対談~21世紀の世界を見据えて~今を変える力
第1回 アビレックス新潟 取締役会長 池田弘氏 × セゾン投信 代表取締役社長 中野晴啓
Vol.2 ビジョンは「21世紀を代表する会社を創る」
●中野
池田会長の中では、まずは地方から変わっていかないと日本は変わらないという考えがあると僕は認識していて、それに関して僕も同じ考えを持っています。つまり、一番最初のフックとしては、地方の自立、もっと掘り下げれば地方にいる生活者ひとりひとりが自分で考えて自分で行動することが、地域が変わっていくために必要なことの1つなのではないかと。そのための方法はいくつかあって、1つはスポーツ。そして、投資も同じように意義があると僕は思っていますね。
●池田会長
投資といっても幅広いので、その中でも「投信を通しての運用」ということですね?
●中野
僕が訴えたいのは、投信を使って長期運用をしていけば、勇気を持てるということなのです。自分が行動したことで将来の不安は解消されると思いますね。セゾン投信の場合には、世界に分散投資をしていくので、要するに地球全体の経済成長に乗っかろうというのがコンセプトです。そのためには長期的な視点が必要ですが、逆に考えれば、長期的に見ることによって、そこそこの資産を築くことができて、そこそこの生活ができる。そのことを地方の方々に伝えたくて全国各地を飛び回っているので、地方の声をダイレクトに聞く機会がたくさんあります。そこで僕自身が感じたこと、考えたことと池田会長がお考えになっていることには共通点がすごく多かったのです。そういう背景があって今回対談をお願したのですが、やっぱり新潟に根を張られているということで、新潟のことを少し。新潟はある程度の経済規模の都市ですが、それでも抱えている問題はたくさんあるはずです。それを、池田会長はどう認識されているのでしょうか?
●池田会長
新潟は140年間、人とエネルギーを出し続けた県です。エネルギーとしては水力、原子力、食料。そして人でいえば、集団就職ということで、たくさんの若者が新潟から出ていきました。この現象は今も変わりません。明治のはじめ日本の総人口は3500万人で、新潟の人口は180万人でした。今は日本の総人口は1億2000万人以上、つまり約3.5倍になっていますが、新潟は240万人なのです。もし総人口と同じ割合で増えているのであれば、約600万人になっている計算ですが、360万人足りない。つまり、この分が全部外に出ていってしまったということです。この要因としては、新潟には働く場所が少ないということがあります。つまり、経済的な発展という意味では、新潟にはかなりハンディキャップがあることになります。
それに比べて横浜は、この140年間でものすごい発展を遂げました。140年前は「横浜村」という小さな漁村だったのですが、今では大都市になりました。それは国が国家予算を東海や関東に集中的に投下して、国を富ませることを考えたからです。欧米に追いつけ追い越せということですね。そして申し訳程度に地方にも国家予算が振り分けられましたが、その額はけた違いに少なかったのです。もちろん、国を富ませるというコンセプトのもと、将来的には地方にも予算を投入するとのことでしたが、国自体が芳しくなくなって、今はすべてがストップしている状態です。
日本の場合、株式を公開している大企業の70%以上が東京に本社を構えていますが、アメリカの場合には、70%以上の大企業が本社を地方都市においています。金融は別かもしれませんが、少なくとも世界的な企業であるマイクロソフトもコカコーラも地方都市ですよね。なぜかというと、大都市に本社をおく必要がないからです。
このような構造が海外にある中で、地方都市新潟がどうかというと、現実問題として雇用がほとんどありません。だから人口減をしていて、その70%~80%が若者です。でももっと深刻なのは、こういった現象が新潟だけではなくて、他の地域でも起きているということですよ。そして、高齢者が取り残されている現実があります。
一方で都会にいる高齢者はどうかというと、核家族化が進み、コミュニケーションがないまま孤独死を迎える。いったい誰が幸せを得たのだろうと思いますよね。日本は経済的にはトップクラスですが、将来への希望、夢という点を考えると、本当に先進国なのだろうかと考えさせられます。
もう1つは、国の仕組み自体が東京に集中しているので、許認可とか補助金の申請を東京でしなければならないという点も、新潟をはじめとした地方都市にとってはハンディキャップだと思いますね。とにかく、すべてが都市に集中してしまっています。
そういう中で何ができるのかと考えると、スポーツによる地方活性が方法の1つとしてありました。もともとは地域がスポーツチームを持つという発想は日本にはなかったのですが、ヨーロッパでは当たり前のことになっています。それをJリーグという形で日本に取り入れたとき、地域は活性化の突破口として「おらがチーム」を持ちたがったのです。それがbjリーグにも波及して、秋田、島根、宮崎が2010年から参入することになりました。ここはJリーグチームがない地域です。
ただ、このような地方活性のための動きは確かにあるのですが、やっぱり都市に向かう人はいるわけです。そう考えると、未だに都市に大きな夢を持つ風潮はあるのではないかと思いますね。
●中野
確かに、まだ都市へのあこがれのようなものはあるでしょうけど、昔ほど強くはなくなってきていると思います。
●池田会長
それは官庁や大企業の大人たちが頭を下げる映像や、リストラにあう場面を子供たちが見ていることもありますね。でも、「じゃ、いったい何がいいのか?」となって地方を選ぶとしても、地方都市の職場はあまりにも少ない。そのときに「ないのであれば、自ら作る」という選択と「今ある企業が事業変革をしながら続けていく」という選択がありますが、実はそう簡単なことではありません。でも、「簡単じゃないからやらない」と言っていても始まらないのだから、だったら自分たちが行動して、自ら自立をするしかないということです。それがパワーを持った変革になっていくのだと思います。
中野
アルビレックス新潟が、地方を元気にするフックになるという戦略はあったと思うのですが、それにいたったきっかけは何ですか?
●池田会長
地域が発展していくには、その地域に住む人たちが新潟に誇りを持つことが大事だと思っています。そのためには、街が光る必要がありますよね。その1つが「行ってみたい街」「住んでみたい街」という位置づけです。実はJリーグができたタイミングで、ある新聞社が若い女性を対象に「魅力のある街」というテーマでアンケートを取った結果、鹿島が4位に入ったのです。若い女性に人気がある選手がいて、優勝争いをしていたこともありますし、暴走族がいなくなってみんながアントラーズを応援しているというイメージが強くなって、それが若い女性の間にも広がったからです。
同じような都市はリバプールやマンチェスターですね。これらは衰退した鉄鋼の街、港街ですが、今では世界的に有名な都市になっています。ということは、サッカーをはじめとしたスポーツの発信力は相当なものなのではないか?と思ったのです。
●中野
アルビレックスはワールドカップを新潟に誘致するためのチームだったそうですね。
●池田会長
そうですね。Jリーグを目指すチームがないと、ワールドカップの試合を新潟で行うことができなかったのです。最後の最後まで名古屋と争っていましたが、結局新潟に決まりました。それはJリーグに「全国に総合型スポーツクラブを作り、それを普及させることが日本のサッカーを強くする」という理念があって、それと新潟のコンセプトが合致したからです。
ただ新潟にはJリーグのチームがなくて、あくまでJリーグを目指すチームがあっただけでした。ということは、もうそれを強化するしかないのですが、経営を見ると赤字続きで解散寸前。でも、この地域に必要かどうかを考えたときに、地域にとっては必要という結論が出て、それに加えて「絶対にチームを支えよう」という強い思いを持つ人も現れたのです。
支えるためには、広く浅くでいいから、地域のみなさんに協力していただく仕組みを作る必要がありましが、最初はみなさんなかなか動いてくれませんでしたね。なぜお金を払ってサッカーを見るの?という世界ですから。
●中野
一番最初は、無料でチケットを配ったそうですね。
●池田会長
とにかく見てもらわないと始まらないと思ったのです。そのときに大切なのが、満員というコンセプトです。満員になると、これまで地域になかったお祭りのようなイメージになるのですよ。4万人のスタジアムが劇場になります。つまり、これまで経験したことがないことを経験できる。そうしたときに、今度は「見る」という受け手側から、「盛り上げる」という行動する側になる動きが出たのです。
●中野
参加するという感じですね。
●池田会長
そう、参加する、あるいは一体になるというイメージです。そうなると、その地域に住む人たちとチームが深く結び付くようになるのですよ。
ヨーロッパのクラブチームのことを調べていたら、70歳近い老夫婦が「これは我が家の宝だ」と言っているものがありました。スタジアムのシーズンチケットです。しかも、100年以上ずっと同じ席を買い続けていました。それを見て思ったのは、「このチケットは家族の歴史が刻まれている宝なんだな」ということです。ということは、サッカーは、家族の歴史を積み重ねることができるものでもあるのですよね。それをベースにして、家族の絆とか歴史を大切にするからこそ、スタジアムは満員になるのだと思います。
しかしながら、若者がどんどん外に出ていって高齢者が残されるという現実がある限り、地域のチームはどんどん衰退してしまいます。でも、新潟から出て行った人たちが成功して故郷に帰ってくることもあって、実際にいろいろな形でサポートしていただいていますよ。ひとりひとりの力は小さくても、それが結集すれば大きな力になります。その力によって、今のアルビレックスは支えられているのです。
NSGグループ代表 池田 弘(いけだ ひろむ)
新潟県立新潟南高等学校卒業後、國學院大学で神職を学び、昭和52年、愛宕神社宮司に就任する。、同年、新潟総合学院を開校、理事長に就任し、30年以上に渡り教育事業、医療福祉事業を展開してきた。 現在は、新潟県、福島県、東京都を中心に、30校を数える専門学校、大学院大学、大学、高等学校、学習塾、資格試験スクールなどの教育機関と、病院や高齢者入所施設などの医療・福祉機関、さらに、専門教材・資格検定事業や、アウトソーシング、給食サービスなどの株式会社からなるNSGグループの代表を務める。
また、平成8年には株式会社アルビレックス新潟の代表取締役社長に就任(現在は取締役会長)。アルビレックス新潟は、平成15年、J2でリーグ優勝、翌年J1昇格。地域密着型の経営手法で経営に当たり、観客動員はJリーグトップクラスとなる。「アルビレックス」の名を冠したスポーツチームは、サッカー、バスケットボールにとどまらず、チアリーディング、ウインタースポーツ、陸上、野球、モータースポーツの各分野でも生まれている。
現在は起業支援に力を入れており、501社の公開並み企業の立ち上げ、育成を目指す起業支援プロジェクトに取り組んでいる。
関東ニュービジネス協議会会長。第15回ニュービジネス大賞アントレプレナー大賞部門最優秀賞受賞、2006年ミッション経営大賞受賞、2006年藍綬褒章受章。
著書・関連出版物
アルビレックス新潟の奇跡-白鳥スタジアムに舞う-(小学館)
池田弘 奇跡を起こす人になれ!(東洋経済新報社)
神主さんがなぜプロサッカーチームの経営をするのか(東洋経済新報社)
地方の逆襲「格差」に負けない人になれ!(PHP研究所)