社長対談~21世紀の世界を見据えて~今を変える力
第9回 セゾン投信 代表取締役社長 中野晴啓 × 株式会社BOOT BLACK JAPAN 代表取締役 長谷川裕也氏
Vol.1 靴磨きのイメージを変えてみせる
●中野
僕がはじめて長谷川さんのお店に来て靴を磨いてもらったのは、2年くらい前だと記憶しています。スタイリッシュなお店で靴磨きをしている素敵な青年がいると教えてもらったのですが、「スタイリッシュ」と「靴磨き」がどうも結びつかなくて…。でも、実際にお店に来て長谷川さんにお会いしたら、すぐに納得しましたね。長谷川さん自身も洗練された感じがしてオシャレだし、お店だってカウンターがあって、お客様が座っている目の前で靴を磨く。こんな靴磨き屋さんなんて見たことも聞いたこともないと思いました。すごく新鮮でしたよ。まるでバーのようですよね?
●中野
僕の世代であれば、駅の近くで靴磨きをしている人たちを「職人」として認識できるのですが、僕よりも上の年代になると感覚が違うようですね。靴磨きというと地位が低いというか。この前、駅の近くで靴磨きをしているのを見たのですが、お客様はなんとなく偉そうな感じがしました。一方で、靴を磨いてもらうことに対して「お願いします」という感じの人もいますよね。
●長谷川さん
僕が路上で靴磨きをしていたときでも、お客様とは思えないくらい丁寧に接してくれた方もいます。僕自身、靴磨きをはじめた当初は、技を見たくて何度も靴を磨いてもらいましたが、前のめりになっていましたね。技を覚えようという気持ちもありましたけど、恐縮してしまってとても偉そうにはできませんでした。
●中野
今でこそ長谷川さんにはすごい技術があって、靴磨きの新しい価値観を世に与えていますが、もともとはどこで勉強したのですか?
●長谷川さん
僕には師匠などはいないので独学です。100円ショップで靴磨きセットを買ってスタートさせました。最初はお客様に「下手くそ」とか「他の靴磨き屋を見てこい」と言われたので、実際に行ってみたら、驚くほどピカピカになるわけです。僕の磨き方と全然違ったので、そこから本気で勉強をはじめました。靴磨きの技だけではなくて革についても知識が必要ですから、革の勉強もしましたし、靴を何足も買って自分で磨いたり、色を染めたりもしました。
●中野
この仕事を選んだきっかっけは?
●中野
やりはじめたら、靴磨きがおもしろかったのですか?
●長谷川さん
おもしろいと思いましたし、お客様にダイレクトに喜んでいただけて、僕自身がとても嬉しかったのです。それまで完全歩合制の仕事をしていたので、言い方は悪いかもしれませんが、無理矢理売る仕事をしていたわけです。でも、靴磨きはすごくシンプルで、駆け引きなしでダイレクトに喜んでもらえます。10分で靴をピカピカに磨くことで喜んでもらえたうえに、お金をいただけることがすごく楽しかったです。人との出会いもそうですが、10分でいろいろなことを話して関係も濃密になりますからね。
●中野
確かに、靴磨きは確実に感謝されますからね。「ありがとう」と言われる商売です。そこに、お金ではない価値があると思いますね。
僕のまわりには、長谷川さんを知ってから高級な靴を買うようになった人がいます。それまでは、高級な靴を買ってもメンテナンスができないから買わないと言っていたのですが、今は普通に履いていますよ。その人は、靴に関しては長谷川さんがいるし、何かあったら長谷川さんに相談すればいいから安心なんだと言っていました。しかも、お店に持って行くことだって、楽しみの1つだと。つまり、靴を磨いてもらうためだけに行くのではなくて、素敵なお店に行って雰囲気を味わったり、長谷川さんや他の靴磨き職人さんに会うのが楽しみなのですよね。
●長谷川さん
技術というサービスを提供するのは当然ですが、それ以外にお店に来ていただける理由があるのは、とても嬉しいことです。逆に、そういったことが僕たちにとってはやりがいになりますし、モチベーションにもなって、もっと高い技術を持とうとか、もっといいサービスをしようという気持ちになってきますね。
2004年春、20歳の時に無一文状態になり、日銭稼ぎの為に東京駅の路上で靴磨きを始める。その後、品川駅港南口に活動拠点を変え、2009年南青山にBrift H(ブリフトアッシュ)を開店。日本中の靴好きが集まる人気店へ。他には類を見ない新技術や新しい靴磨きのスタイルを作り続けている。