セゾン投信 20年の軌跡 「長期投資立国」による資産市場のすそ野拡大 園部 憲 代表取締役会長 × 竹内 美奈子 取締役副社長

2006年に設立されたセゾン投信は、2007年に2本のファンドを新規設定し、
「長期・積み立て・分散投資」の普及に向けて歩み始めた。

当時、投資は"一部の人のもの"であり、金融業界側も短期売買と手数料ビジネスがあたりまえだった時代である。

あれから20年——
日本国内における投資環境はどう変わり、セゾン投信は投資家へ何を届けてきたのか。
弊社代表取締役社長 園部鷹博と、セゾン投信の挑戦を長く見てきたファイナンシャル・ジャーナリスト 竹川美奈子氏が振り返る。

Chapter 1

ファンド設立の背景

竹川:

セゾン投信が設立された2006年当時と現在では、日本国内における投資に対する考え方はだいぶ変わりましたよね。いまでこそ「NISA」が普及し、一般の生活者にも「長期的な資産形成」や「投資」は必要なものだと認識され始めています。

しかし、かつては「投資は一部の、関心のある人だけが行う」もので、「早く大きくお金をふやしたい」と考える人も多かったです。例えば、テーマ型ファンドや、当時であればBRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国)各国の株式に投資する投資信託、毎月分配型の投信などが人気を博していて、金融機関もそれらを積極的に販売していました。お客さまの投資の目的を踏まえ、金融資産全体をみてポートフォリオ提案を行うという意識は希薄だったように思います。

園部:

そうですね。ネット証券においては、デイトレーダーと称される売買頻度が高い投資家を主な対象として手数料収入を得るビジネスが見られました。また、対面証券においても短期間での売買を前提とした提案や、一定期間経過後に別のファンドへの乗り換えを提案するような商習慣が広く行われていた時期がありました。

一方で、2018年に「つみたてNISA」が始まってから主流となった積み立て投資のように、一般の方が将来を見据え、長期で毎月投資をするという発想は本当に少数派でした。

竹川:

そうした状況下、セゾン投信が「セゾン・グローバルバランスファンド」と「セゾン資産形成の達人ファンド」というふたつのファンドを設定し、「長期・分散・低コスト+積み立て」を呼びかけた2007年頃は、ちょうど転換期だったのではないでしょうか。インターネットが普及して、個人投資家が自ら、情報発信するカルチャーが育ってきた時期とも重なっています。短期的・投機的な投資ではなく、「投資信託を活用して長期的に資産形成をするにはどうしたらよいか」を模索したり、「いい投資環境を作っていこう」という動きが出てきたりしました。

2008年1月には1回目の「投信ブロガーが選ぶ!Fund of the Year」(現在は個人投資家が選ぶ!Fund of the Year)が発表され、1位を獲得したのが、セゾン投信の「セゾン・グローバルバランスファンド」でした。米国の独立系運用会社バンガードが運用する複数のインデックスファンドに投資するファンド・オブ・ファンズで、1本で国際分散投資ができること、バランス型(株式と債券の比率は半々)で信託報酬率が1%を切るものは当時としては珍しく、個人投資家も注目したのだと思います。

園部:

当時よく見られた、目先の利益を追って短期間で商品を乗り換える投資行動については、投資に関する理解や経験の違いが影響していた側面もあるのではないかと考えていました。短期的に見て大きく成長が期待されるテーマ型ファンドが存在したとしても、そのファンドが10年、20年といった長期的な視点で見た場合、高い成長を維持できるとは限りません。一方で、わたしたちのファンドは、長い時間をかけて高い成長を得ることを目指したのです。

しかし、当時の投資家は短期的な値上がりを重視する傾向にあり、最初から多くの人に当社のコンセプトを受け入れてもらえたわけではありません。実際、「物足りない」という不満の声も多かったわけです。

竹川:

たしかに、短期的に大きな値上がりを狙う商品ではないですからね。ただ、資産形成のコア(核)として、現役世代が活用するにはちょうどよかったのかもしれません。現役世代はそれほどまとまったお金を持っていませんから、毎月のお給料の一部を少しずつ投資に回し、時間をかけて資産形成をしていくのが現実的です。当時、積み立て投資を始めて、続けたことが結果的に長期投資につながり、投資の果実を得ることができたわけですから。

園部:

おっしゃる通りですね。2007年に設定した2本のファンドはいずれも積み立て投資をコツコツと長期間続けることで資産形成を実現していくことを目的とした商品です。運用会社としてお客さまに資産形成を実現していただくため、当時から市場が荒れるたびに「いまは慌てず保有し続けることが大事ですよ」とメッセージを発信し、資産形成を伴走してきました。

Chapter 2

資産市場のすそ野が
広がった本当の理由

竹川:

個人が資産形成を目的として、投資信託の積み立てが意識され始めたのは、「一般NISA」がスタートした2014年頃からでしょうか。ただ、2014年にスタートした「一般NISA」は非課税保有期間が5年しかなく、ロールオーバー(※)はできたものの「長期投資をするのはむずかしい」という声もありました。
※非課税期間が終了するNISA枠で保有している投信などを、翌年のNISA枠へ移管すること

2018年に「つみたてNISA」ができて、現役世代を中心に投資信託を積み立てる基盤が整ってきて、2024年からのいわゆる「新NISA」で爆発的に関心を持つ人が増えたという流れでしょう。NISAは成人の4人に1人が口座を開設するまでになりました。

わたしは大学でマネープランのお話をする機会があるのですが、数年前は「NISAという言葉は聞いたことがあります」という反応でした。最近では「NISA口座を開設して、バイト代で、毎月5000円の積み立て投資を始めました」という学生もいます。社会人も含め、積み立て投資に対する認知度は確実に上がっています。

園部:

将来の資産形成に向けて、長期の積み立て投資を始めた人が増えているのは喜ばしいことです。しかし、それは2009年3月以降、マーケットが好調だったことで株式投資などにより成功体験を得た人が増え、その影響を受け投資をする人が増えたというのが実情ではないでしょうか。少しネガティブな視点で見ると、「日本が貧しくなったから投資が普及してきた」といえるとも思うのです。生活の苦しさを実感し始めたなかで、「なにかやらないといけない」という危機感を覚えた人も多いでしょう。そのようなタイミングで、ニュースやSNSで「普通の会社員でも10年、20年と投資を行えば、老後の生活が困らない程度に資産形成ができる」という成功体験を見て、金融リテラシーが十分ではないまま背中を押されるように始める人が増えているのだと考えます。

その結果、「NISA貧乏」と言われるような歪みが生じているとも言われています。長期での積み立て投資を成功モデルとしながらも、結局は短期的な成果を求めてしまい、身の丈以上の投資をしてしまう。その結果家計のバランスを乱したり、がむしゃらに副業や節約をして投資資金を捻出したりするケースも出てきている。いま、投資のすそ野が広がっているからこそ、私たちは運用会社としてお客さまに資産形成に必要な正しい知識や情報を発信し、お客さまが適切な投資行動をとっていただけるよう、金融リテラシーの向上に貢献する責務を強く感じています。
※NISA貧乏:将来の資産形成のために「NISA」の投資枠を埋めることを優先し過ぎるあまり、現在の生活が苦しくなったり、手元のキャッシュが不足したりする状態を指すネット上の造語

私も大学の授業に呼ばれる機会があるのですが、「若いうちから投資したほうがいいですか?」「給料からどれくらい投資したらいいですか?」という質問を受けます。その際わたしは、「自分の価値を高めるため、今の自己投資も大事にしてくださいね」とお伝えしています。

竹川:

若い時は自己投資が大事、というのはその通りですね。収入の一部を貯蓄や投資に回していくわけですから、稼ぐ力をあげることが一番の投資です。

私は年に1度、個人の資産や負債を記録したバランスシート(B/S)を作ることをおすすめしています。リタイアに向けて、資産を積み上げて、負債を圧縮していきたいわけですが、ここでいう資産は金融資産に限りません。例えば、「何かを学ぶことで得られる知識やスキル」「家族や友人との良好な関係」、「その時にしかできない経験」などもあるでしょう。長期的に自分のB/Sにどんな資産を積み上げていきたいかを意識しながら、貯める・ふやすとのバランスをとってほしいと思います。

Chapter 3

20年間、セゾン投信が
伝えてきたこと

竹川:

この20年間におけるセゾン投信の取り組みで象徴的なのは、長期・積み立て投資の大切さを発信し続けたことだと思っています。東京だけではなく、全国各地を回って、ファンド説明会や運用報告会を実施してきましたが、自社のファンドの説明にとどまらず、長期投資や積み立て投資の普及に努めてきました。

園部:

ありがとうございます。いまでこそ、そうした訴求を大手金融機関の多くが行っていますが、「つみたてNISA」以前は「長期の積み立て投資」という市場がほとんどなかったのが実情です。ですから、自ら市場をつくることで、結果的に当社のファンドを選んでいただけるという思いがありました。

しかし、いくら長期の積み立て投資を訴求しても、運用成績が伴わなければ意味はありません。その点で、この20年間で当社が挙げたなによりの成果は、当社のファンドに投資されたお客さまに積み立て投資の成功体験を提供できたことです。数字で見てみると、金融庁が求める「共通KPI(顧客本位の業務運営)(※)」の算出に基づいて、運用損益がプラスの顧客比率が95%以上(2026年3月時点)という非常に高い水準を達成しています。つまり、運用を継続されたお客さまの多くが含み益の状態にあるということです。

20年前、長期投資や積み立て投資に半信半疑だった方々に対して、「本当に有効だった」と実証ができたことは大きな価値だと思っています。
※金融庁が開示を求める「顧客本位の業務運営に関する原則」に基づき、投資信託の販売会社が公表する指標

竹川:

市場の暴落時に焦って売却したり、積み立てを停止したりといった行動を防止するための情報発信を継続して行うといった、地道な取り組みは大事ですね。今でこそ、淡々と積み立て投資を継続する意義が理解されるようになってきましたが、当時は暴落時に怖くなって途中で積み立てをやめてしまう人もいましたから。

資産形成においては、主役は相場ではなく、自分。短期的な変動に振り回されるのではなく、投資をする目的や運用できる期間などをしっかりと見つめ直すことが大切だと感じます。

そうした取り組みの成果でもあると思いますが、セゾン投信が運用する投信の月次の資金の流出入をみると、ほとんど資金が流出していません。下がった時にも解約せずに持ち続ける、積み立て投資を続ける受益者がいるのは頼もしい限り。投信のパフォーマンスは運用会社だけでつくれるものではなく、「いい受益者」がいてこそ実現できるものです。それが「共通KPI(顧客本位の業務運営)」の結果にも表れているのではないでしょうか。

園部:

ありがとうございます。本当に、お客さまに恵まれた20年間であると感じています。しかし、それでも途中で解約するなど投資をやめてしまったお客さまもいるわけですから、情報発信やサポートについては課題もあります。また、これからは、資産活用期を迎えるお客さまに対して、資産の一括売却で老後資金を得るのではなく、投資を続けながら取り崩して使っていく「生涯投資」の考え方をお伝えしていく必要もあるでしょう。

これからの20年に向けた生涯投資の普及について引き続き竹川さんとお話ししたいと思います。

Guest Profile

竹川美奈子

竹川美奈子たけかわ みなこ

LIFE MAP合同会社代表/ファイナンシャル・ジャーナリスト

出版社・新聞社勤務を経て独立。2000年にFP資格を取得。取材・執筆活動を行うほか、投資信託や確定拠出年金(企業型DCやiDeCo)、マネープランセミナーの講師などを務める。2010年から個人投資家の草の根交流会「コツコツ投資家がコツコツ集まる夕べ(東京)」の共同幹事を務めるなど、資産形成と投資のすそ野を広げる活動にも取り組んでいる。『大改正でどう変わる? 新NISA徹底活用術』(日本経済新聞出版)、『一番やさしい!一番くわしい!個人型確定拠出年金iDeCo(イデコ)活用入門』(ダイヤモンド社)など著書多数。