FRB・米統計局に異例の人事介入!トランプ政権の狙いとは?

こんにちは!気になる金融の“あれこれ”を発信するコラム「〇(まる)の部屋」の“まるこ”です。
※本コラムは、各種報道等をもとにセゾン投信が作成したものです。
今回は、FOMCの利下げ見送りと雇用統計の下方修正、そこから始まったトランプさんの人事劇について、順をおって見ていきたいと思います。トランプ政権の思惑も探っていきます!
~本日のお品書き~
FOMC 5会合連続の政策金利据え置き
7月30日(米国時間)、FOMC(米連邦公開市場委員会)は政策金利の据え置きを決定。トランプさんによる再三の利下げ圧力にもかかわらず、5会合連続の利下げ見送りとなりました。
物価上昇が長引くリスクや、トランプ関税の影響が企業努力で一時的に抑えられているものの、今後の本格的な影響を慎重に見極める姿勢が示されました。
米国政策金利の推移
(2000年1月末~2025年7月末)

32年ぶりの票割れ!トランプ任命の理事が利下げ主張
今回のFOMCでは、ボウマン副議長とウォラー理事が利下げを求めて反対票を投じました。理事2名の反対はなんと32年ぶりだそうです。両名ともトランプさんの任命であり、彼の意向を反映した動きとの見方もあるようです。ただし、二人とも反対の理由として「労働市場に弱さの兆しがある」との見解を示し、公式な発表を行っています。
米雇用統計ショック?下方修正により雇用者数が急落!
8月1日(米国時間)発表の7月雇用統計は市場予想を大きく下回る結果となりました。
失業率 | 4.2% (6月4.1%) |
---|---|
非農業部門雇用者数 |
前月比7.3万人増 (市場予想10~11万人増) |
さらに、5月・6月の雇用者数が大幅に下方修正されました。
結果、5月から7月の3か月の平均雇用者数(前月比)はわずか3.5万人増となり、コロナ後最悪の水準となってしまいました。
※「非農業部門雇用者数(前月比)」(雇用者数)は、簡単にいえば1か月間にどれだけ雇用が増えたか(または減ったか)を見ることのできる数字です。季節要因で変動の多い農業関連は含まれないため「非農業」です。
雇用者数のデータは、前月比でどれだけ増減したかが注目されます。大きく増加していれば雇用の伸びが続いて景気が堅調と捉えられ、増加数の伸びが少ないと景気が停滞している、あるいは後退の兆しと捉えられたりします。
今回は、好調と予想されていた7月の雇用者数が市場予想を大きく下回り、実は景気が良くないのか?とネガティブ・サプライズとなりました。また、下方修正値を含めた3か月間の雇用者数の平均が極端に低い数字となったことで、悪い数字は一時的なものでなく、景気後退入りを示唆するものではないか、と市場の不安を呼び起こしました。
結果、当日の市場では、NYダウが一時700ドル超下落しました。
また、為替も円高に反転しました。
ドル円為替は、直前の7月30日(米国時間)FOMC発表後、一時1ドル150円台と円安に動いていました。そこから8月1日の雇用統計発表を受けて円高に反転。FOMC前の水準の1ドル147円台まで戻る展開となりました。
背景には、それまでの市場の「米国の利下げはまだ先」という見方が、下方修正により景気の減速を意識したことで一転して「利下げが早まるかもしれない」という思惑に転じたことにあります。(その間には1ドル160円を超すのでは、といった予想もありました!)
トランプさんが米統計局長を電撃解任!
雇用統計の悪化に激オコらしきトランプさんは、当日中に統計を担当する労働統計局の局長を解任。
「バイデン政権の人物で、数字を改ざんした」と主張しましたが、具体的な根拠は示されていません。
しかも、この局長はバイデン政権下で任命されているものの、共和党が多数派を占めていた当時の上院の承認も得ています。共和党はトランプさんの属する政党であることからも、今回の解任劇は前代未聞の人事介入と捉えられました。
雇用統計では、もともと集計時の報告の遅れなどから、雇用者数が後日修正されることはありました。一方、修正がここまで大幅になった要因として、トランプ政権による大規模な政府人員削減により人手が不足し、統計値の正確性が低下した、という見解も見られます。そうであれば、イーロン・マスクさんのチェーンソーがシンボルだった政府人員の大幅削減が、結果トランプさんに跳ね返っているともいえますね。
FRB理事退任で議長人事も加速?
また同じ日、FRB(連邦準備制度理事会)理事のクーグラーさんが退任すると発表しました。クーグラーさんは、30日(米国時間)のFOMCを欠席し投票しませんでした。
FRB議長は理事の中から選ばれます。トランプさんは、パウエルさんに退任しろ!コールを続ける傍ら、任期満了を待たず早く次期議長を指名することで、パウエルさんの権力を削ごうとも画策していました。来年1月までのクーグラーさんの任期を待たず理事ポストが空いたことで早めに動けることになりました。トランプさんは「空席ができてうれしい」と発言しています。
ちなみに、8月のFOMCは開催されませんが、8月21~23日に経済シンポジウム「ジャクソンホール会議」が開かれます。各国・地域の中央銀行総裁や経済学者らが集まる会議でパウエルさんがどんな発言をするのか(しないのか)、個人的に興味があります。
トランプ政権の戦略的な人事介入か?
今回の一連の人事介入や言動について、多くの報道やレポートでは、FRBや米統計局の信頼性を損なうものと指摘しています。巡りめぐって、株式・債券・為替市場における「米国離れ」を引き起こす可能性も示唆されています。
一方、単なる感情的な反応ではなく、トランプ政権による戦略的な布石と見ることもできそうです。
ベッセント財務長官に次期FRB議長を打診
例えば、FOMC理事の退任を受けて、トランプさんは早速ベッセント財務長官に次期FRB議長のポストを打診しました。ベッセントさんは減税や関税施策を推進してきたトランプ政権の中核人物です。辞退となったものの、この人選検討から、トランプさんの関心が従来の減税や関税といった財政政策から、金融政策(利下げ)に移っている可能性が伺えます。
利下げはドル高の是正(円高ドル安)や米国の貿易赤字の縮小にもつながりえます。FRBの人事を通じて金融政策に影響を与えようと戦略的な動きを強めたと見て取ることもできます。
解任は統計への影響力強化?
また、今回の米統計局長更迭とそれに伴う「改ざん」との批判も、政権が統計データに対して影響力を強めようとしていると捉えることもできそうです。今後、政権に不利なデータが出た時にも「信用できない」と、政策の正当性を主張する材料になる可能性もあります。人事権を握り間接的にデータ発表の内容等に影響を与えれば、支持層に向けた情報操作も可能になるかもしれません。でも、それこそが改ざんなのではと思ってしまいます・・・
トランプさんがもたらす混乱に慌てない!
このように、トランプ政権は、貿易赤字・財政赤字の削減という大きな目標に向け、経済・金融・政治の各方面に影響を及ぼす動きを強めていると見ることができるようです。
世間では「前代未聞」「墓穴を掘っている」といった批判が見られますが、視点を変えて見ることも大事かもしれません。例えば、トランプ関税政策は、米国の税収だけ見れば米国の財政を潤わせているとの見方もできるわけです。
トランプさんの常識にとらわれない、なりふり構わずに見える姿勢は、当たり前になれた世界経済を振り回し、さらなる混乱をもたらすかもしれません。
一方、足元では、米国依存からの脱却を目指し様々な取り組みをはじめる国や地域、企業も現れ、関税分の価格転嫁(値上げ)ができる企業とできない企業の淘汰も進みそうです。混乱が新しい枠組みや成長を生み出すチャンスとなり、世界や市場の勢力図が大きく変わっていくかもしれません。
このような歴史的な転換期に直面している時こそ、短期的な市場の動きに振り回されず、長期的な視点で世界経済の成長を見守りつつ、しっかり知識と理解を積み上げていくことがより大切になっていくはずです。
トランプさんの任期もあと3年ちょっとです。成果を急ぐトランプさんの言動がより苛烈になったとしても、米国政府と国民がどのような選択と判断をしていくのか、淡々と見守るぐらいの気持ちを持つことが良いのではないでしょうか?
株価が上がった下がったと眉間にしわを寄せていると長続きしないのが世の常です。投資を通じて自分自身の知識も増やせて楽しい!そんな気持ちを持つことも、資産形成のコツ!なのかもしれません。一緒にわくわくを続けてみませんか?
【まとめ】FOMCから米統計局長解任までの流れ
最後に、7月30日のFOMCから8月1日の米統計局長解任までの出来事をまとめました。
日付(米国時間) | 出来事 |
---|---|
7月30日 | FOMC 政策金利据え置きを決定 |
8月1日 | 雇用統計発表 予想を大きく下回る結果に |
FOMCクーグラー理事 退任発表 |
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米統計局長 電撃解任 |
引き続き、「〇(まる)の部屋」をよろしくお願いします。
(まるこ)
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ライタープロフィール
まるこ
全国津々浦々、年間400件を超える勉強会やセミナーで資産運用の本質を伝え、いまやセゾン投信のベテラン社員に。バブル崩壊にリーマンショック・コロナショックなど金融業界の荒波にもまれつつ、投資信託はもちろん、債券・株式・為替・リートなど様々な金融商品の開発・販売を経験。執筆は初挑戦ながら、経験から培った専門的知識と持ち前のおせっかい気質で金融トレンドやお役立ち情報を発信していきます。応援よろしくお願いします。